スタッフコラム

京都で家を建てる(32)ロングライフ住宅の「変えていくべきところ」

これまで数回にわたり「ロングライフ住宅」についてご紹介してきました。7月のコラムでは、ロングライフ住宅は、これからの社会に求められる住宅であることと、そのためには、高齢者への配慮などストレスなく暮らせる家であること。8月のコラムでは、耐震性能や腐朽に強いなど、物理的な耐久性が必要なこと。9月コラムでは、美しく経年変化する、いわゆる「古美る」ことを前提とした素材選択をしておくのが大切なこと。そして、10月のコラムでは、たとえ古くても「住みたい」と思えるような意匠(デザイン)であることと、そのためには、いつの時代においても美しさが感じられる、「普遍性」が必要ではないかと提言しました。

これらはすべて「ロングライフ住宅=ずっと変わらないこと」と言う図式でしたが、今回のコラムは、ロングライフ住宅の「変わらなければならないこと」についてご紹介をしたいと思います。

時代とともに家族の暮らし方は変わる

現在お住まいの家、あるいはご自身が子ども時代を過ごされた実家などを思い出してください。時代の変化とともに使わなくなった部屋はありませんか?代表的なのが「子ども部屋」です。専用の個室を作ったが、進学や就職と同時に子どもは家を出てしまい、それ以降に使うのはたまに帰省したときの寝室としてぐらいなどです。また、多くの場合、子ども部屋は2階に設けますから、高齢となった両親にとっては階段の昇り降りも次第におっくうになり、部屋に入るのは、通風のためたまに窓を開けるときだけになっていたりします。

子ども部屋が必要と思えるのは、中学生〜高校生の6年間プラスαの期間ではないでしょうか。年数にすると8年から10年です。これに対して、ロングライフ住宅の耐用年数が仮に100年だとしても、住宅寿命の1割の期間しか使われず、それ以降は「開かずの間」となっているのは、居住空間の効率から考えるとなんとももったいない話です。
子ども部屋以外にも、ご主人が欲しがった書斎や、両親が遊びに来たときのためにと作った和室なども同様に、時代とともに稼働率が低下していきがちです。

ただし、このような状態になることは、住宅を建てる時点である程度わかっていたはずです。しかし、その時は、今、もしくは数年先だけを考えて間取りを考えたため、前述のような無駄な空間ができてしまったわけです。これは、施主側よりも基本設計をした設計者に責任があるかもしれません。設計者は数多くの家づくり事例を見てきたわけですから、家づくりビギナーである施主にはしっかりとアドバイスをするべきだったのです。

また、ここまでは家族の構成人数が減ることを前提にしましたが、逆に増えることもあります。高齢の親と同居することになったり、外で暮らしていた子どもが戻ってきたりする場合です。こちらについてはあらかじめ想定していなかった場合が多いかもしれません。

いつの時代にも快適に使える可変性を

このように、数十年のスパンで考えると、家族の暮らし方はとても流動的といえます。そのため、住宅のプランもこの流動性に対応していかなければ、空間の利用効率や使い勝手が悪く、結果としてストレスが溜まる住宅となってしまいます。これでは、ロングライフ住宅とは言えません。

住宅のプランに可変性をもたせる考え方に「スケルトン・インフィル」というものがあります。建物を支える構造躯体をスケルトン、住宅内の間仕切りや内装・設備をインフィルと呼び、この2つを分離して考える建築手法です。耐久性が高いスケルトンの中に、変更が容易にできるインフィルを組み込むことにより、ライフスタイルの変化に合わせて間取りを変更することができます。

スケルトン・インフィルの概念

スケルトン・インフィルは特別なことのように聞こえますが、商業用ビルの多くはこの手法で作られています。オフィスだった場所がいつの間にか飲食店になっていたり、さらにそこが整体院になっていたりする事例は、町中でよく目にする光景ではないでしょうか。内装が構造躯体とは分離しているため、さまざまな業種のあらゆる内装に対応できるのです。

また、住宅においても特別なことではありません。ヨーロッパやアメリカでは、耐用年数を誇る建築物は資産価値が高いと位置づけられます。そのため、構造躯体はそのままに住宅内部を家族のライフスタイルや嗜好に合わせていく、スケルトン・インフィルを分けた建築が普通になされてきました。逆に、内部の壁が建物構造を兼ねているため、インフィルの変更が容易にできない日本の住宅のほうが、世界的な目で見ると特殊と言えるかもしれません。

スケルトン・インフィルはどう作る?

スケルトン・インフィルでロングライフ住宅を考えるメリットはおわかりいただけたかと思います。それでは、スケルトン・インフィルの家づくりをしたいと思ったとき、どうすれば良いのでしょうか?商業用ビルと同じように、鉄筋コンクリートや鉄骨造にすべきなのでしょうか? 確かにそれもひとつの正解です。しかし、建築コストの点で問題が残ります。木造に比べると、どうしても高額になってしまいます。

そこでおすすめしたいのが、当社が採用している「耐震構法SE構法」です。ネーミングのこともあり、耐震性能に話題が集中しがちなSE構法ですが、スケルトン・インフィルに適した構造体でもあります。

SE構法イメージ

その理由は、SE構法が壁で建物を支えるのではなく、鉄骨造のビルなどと同じく、頑丈な集成材の柱と梁を耐久性の高い金属パーツで接合し建物を支える構造(これをラーメン構造と呼びます)だからです。マンションなどの鉄骨造の建築物の柱と梁を、そのまま木の集成材に置き換えたと考えていただければ、イメージしやすいかもしれません。これにより、柱や梁に影響を与えることなく、テナントビル同様にインフィルを変更することができるのです。

また、増築をするなど構造体に手を加える必要がある場合も、新築時の施工図や構造計算データが永久的に保管されているため、耐震性能を落とすことなく変更がおこなえるのもSE構法の特徴です。

ロングライフ住宅は変更しやすく

「ロングライフ住宅だからこそ変えやすくつくる」矛盾するように聞こえますが、これが私たちの提案です。さらに、基本設計段階において、その後の10年後、20年後・・・100年後の家族構成や暮らしを仮定して、変更されるであろう箇所についてある程度の目星をつけておくことも大切です。また、自分たち家族や子世帯がずっと住み続けるとは限りません。仮に売却となっても、取り壊されることなくインフィルを変更しながら次のオーナーに住み続けてもらえるのが、真のロングライフ住宅と言えます。

ここまでお伝えしたような、SE構法を用いた可変性の高いロングライフ住宅の施工実績を当社は多数保有しております。具体的な事例などをより詳しく知りたい方は、ぜひ当社にお問い合わせください。